導入事例 #04 金融

住宅購入目的ではない可能性のあるローンの申し込みを即時に検知し、不正利用を防止する「住宅ローン不正検知AIシステム」を開発

OVERVIEW 概要

テーマ

住宅ローン不正検知AIシステム

お話を伺った方

静銀信用保証株式会社 代表取締役社長 佐々木伸成様

静銀信用保証株式会社 営業部 審査企画グループ グループ長 鈴木宏明様

課題
  • 近年、住宅ローンを利用して賃貸用不動産を購入する不正利用が問題視されている。
  • 従来、審査担当者が不正の疑いがないかを目検で確認していたため、担当者によって審査精度にばらつきが生じていた。
解決
  • 過去の住宅ローンの不正申し込みの特徴を学習したAIが、新規申し込みが不正に該当する可能性を100段階のスコアで可視化してくれる、住宅ローン不正検知AIシステムを開発。
  • スコアが審査画面に表示されることによって、これまで不正を見抜けなかった審査担当者も意識して審査に臨むようになった。

しずおかフィナンシャルグループのグループ会社であり、住宅関連資金を中心としたローンの保証業務を担う静銀信用保証株式会社様。近年、銀行業界では住宅ローンを利用して賃貸用不動産を購入するという不正利用が問題視されています。加えて、保証審査における効率化や審査精度の向上、大量の審査案件を抱える担当者の業務負担など解決が急がれる課題が存在します。そこで、同社はHEROZと共同で住宅ローン審査業務に活用する不正検知AIシステムの実務適用に向けた取り組みを進め、2024年4月より運用を開始しました。今回は、プロジェクトを推進した代表取締役社長の佐々木伸成様と営業部審査企画グループの鈴木宏明様にお話を伺いました。

審査の属人化を解決し、ローンの不正利用を未然に防ぐ

今回のシステム開発のきっかけとなった「住宅ローンの不正利用」とは、そもそもどのような問題なのでしょうか。
佐々木様
住宅ローンは、自らが居住する住宅の購入という資金使途を前提に、長期かつ低金利で組むことができる定型的な融資形態です。しかし近年、低金利の住宅ローンを利用する目的で、資金使途を自宅購入と偽って申請し、実際には融資を受けた資金を賃貸用不動産の購入に充てるという不正利用が発生しています。
こうしたケースでは、多くの場合、安価に仕入れた不動産を高値で売却し利益を得ようとする悪質な不動産業者が介在し、審査資料の改ざんや不動産価格の水増しなどが行われるため、お客さまも、金融機関も大きなリスクを抱えてしまうことから、未然に防止することが必要だと考えています。
これまではどのように不正利用を検知してきたのでしょうか。
佐々木様
弊社ではこれまで、事前審査の段階で審査担当者が全ての申し込みについて不正の疑いがないかを目検で確認していました。しかし、審査知見が個々の担当者に依存していることで、審査の精度にばらつきが生じることが大きな課題となっていました。

審査経験が豊富なベテランの審査担当者に蓄積された知見は暗黙知化されており、組織内で共有することは簡単ではありません。経験の浅い審査担当者であっても同様に違和感を持ち、不正を見抜くことができるような仕組みをどのように構築すべきかを考えていく中で、AIを活用することはできないだろうかと思い至るようになりました。
開発着手の決め手となったエピソードがあれば教えてください。
佐々木様
直接のきっかけは、不正利用の事実がローンの実行後に判明し、代位弁済に至る案件が短期間に相次いだことです。悪質な業者に騙されて、賃料だけではローン返済ができず、生活破綻に追い込まれてしまったお客様もおり、改めて融資を行う銀行という立場の責任を強く感じました。そこでなんとか未然に防ぐことができないだろうかと模索していたところ、クレジットカード会社などがカードの不正利用をAIで検知し、損失の抑止につなげているという事例を耳にし、ローン審査でも同じように活用できないかと考えたわけです。

住宅ローン不正利用検知システム開発の実績があるHEROZに依頼

HEROZに依頼をしたのはどのような理由からだったのでしょうか?
佐々木様
HEROZさんに依頼した理由は、過去にディープラーニングを活用した住宅ローンの不正利用検知システム「ARUHI ホークアイ」を開発し、実際に運用していた実績があったからです。その実績により、安心してHEROZに依頼することができました。
今回開発された住宅ローン不正検知システムの概要を教えてください。
鈴木様
過去の不正申し込みの特徴を学習させたAIが、新規の申し込み案件に対して不正に該当する可能性を100段階のスコアで可視化するシステムです。

HEROZとはどのように役割分担をしてプロジェクトを進めていったのでしょうか?
鈴木様
HEROZさんには、AIモデルの開発と審査システムとの連携に必要なAPI開発をお願いしました。弊社では、AIモデルを開発する際、モデルに組み込む特徴量や学習データを決める際の審査観点からのアドバイスや、AIモデルの出力結果に対するフィードバックを担当しました。
想定よりも速く開発が進んだと聞きました。
佐々木様
今回、AIモデルの開発と精度検証に2か月、弊社の審査システムとの連携実装に4か月、全体で6か月という短期間でシステムを導入することができました。これは、一般的な銀行のシステム開発と比較しても異例の速さです。1年以上はかかると見込んでいたので、半分の期間で完成してしまったことになります。

HEROZさんが過去に同様のAI開発経験を持っていたため、短期間で高精度なモデルを構築できたことが一つの要因です。さらに、データ項目の意味や業務フローについて一から説明する必要がなかったため、コミュニケーションも円滑に進み、プロジェクトをスムーズに進行できました。
その他にHEROZに依頼して良かったと感じた点はありますか?
佐々木様
社内でのHEROZさんの知名度は、開発着手当時はさほど高くはありませんでした。ただ、他部署にベンダーとして紹介する際に、多くのプロ棋士が将棋の練習で活用しているAIモデルを作っている会社なんだよ、という言い方をすると、一瞬で伝わりました。そういったインパクトを銀行グループ内に与えられたことも良かったことかなと思っております。
苦労された点などはありましたか?
鈴木様
AIモデルの開発で苦労した点は、AIに何を不正として定義し、学習させるかということです。この点は最後まで試行錯誤していました。というのも、住宅ローンの不正利用は、融資実行から不正が発覚するまでにタイムラグがあり、さらに、不正の発覚件数も多くないことから、事例が限られています。そのため、AIに学習をさせる際に偏りが出てしまう懸念がありました。

その偏りを補完するという目的で「事後的に不正と判明した案件」に加えて、「審査時に不正の疑いが強いと判断し、融資をお断りした案件」も学習させてみることになりました。そうすることでより精度が上がるのではないかと考えたのです。しかし、最後まで並行して精度検証を行ったところ、「審査時に不正の疑いが強いと判断し、融資をお断りした案件」は学習させない方が判別力が高いという結果が出ました。そのため今回のAIモデルでは「事後的に不正と判明した案件」のみを採用しています。
審査システムとAIモデルの連携実装で工夫された点はありますか?
鈴木様
審査システムとの連携実装で、弊社のクラウド基盤とAIモデルをAPI連携させるシステム構成にした点ですね。今、静岡銀行ではグループ全体でローン分野におけるDX化が進んでおり、その中でAPI連携を実装させるという計画になっていました。

今回たまたまこのAIモデルで初めてAPI連携を実装しようということになりましたが、専門分野として知見のあるHEROZさんと共にパブリッククラウド上でこれを実現できたことは、弊社にとっても良い経験にもなったと感じています。SEの方達と密にコミュニケーションをとりながら、API連携の実装に至ることができました。

不正スコアが表示されることで、審査担当者の意識にも変化が

システムが導入されてからどのくらい期間が経ちますか?
佐々木様
今年の4月に導入を開始して、約3か月経過しました。現在20名の審査担当者が使用しています。
実際に審査担当者の方は不正スコアをどのように活用されているのでしょうか?
佐々木様
現在、審査システムの画面上にAIが出力する不正スコアが表示され、審査担当者がそのスコアを審査の参考にしています。システム導入前から審査フロー自体は変更していませんが、新規データに対するAIモデルの出力精度を確認しながら、今後、審査フローの見直しも検討しているところです。
導入後のAIの精度はいかがでしょうか?
鈴木様
AIの不正スコアが高い申し込みについては、審査担当者が見ても違和感を抱かせる案件が含まれているので、AIは高精度に不正の特徴を捉えていると感じています。一方で、審査担当者が不正を疑っていないものに対しても、高いスコアが出ることもあるため、そのあたりの原因を追及しながら精度をより高めていく必要があると考えています。
導入したことで何か変化はありましたか?
鈴木様
ひとつは、審査担当者の意識の面ですね。これまでは、不正が多数発生した時期に審査経験がある担当者とその時期を経験していない担当者の間では、どうしても不正利用の疑いに対する意識のばらつきがありました。しかしAIを導入したことで、必ずスコアが表示されることから、これまで不正を見抜けなかった担当者でも、意識して審査に臨むことができるようになりました。

ただ一方で、不正検知が厄介なのは、審査を通過させなければ不正があっても発覚しようがないということです。今後、運用実績を積み重ねる中で「審査を通過させなくてよかった」という場面に遭遇できれば、本当の意味で作った甲斐があると感じられると思います。
システム導入によって、どれくらいのコスト削減効果を期待されていますか。
佐々木様
住宅ローンの不正利用が発覚した場合、融資金の全額が回収できるとは限りません。特に、不動産業者が不正を主導するケースでは、物件価値が残債を下回ることが多く、担保物件を処分しても融資額を回収できないことがしばしばあります。この融資額と回収額の差が弊社の損失となります。弊社は、住宅ローンの不正検知AIシステムを導入することで、不正利用を未然に防ぎ、年間の損失額を20%程度削減することを目標としています。

定期的にモデル更新を行い、巧妙化していく不正利用を防ぐ

今後、システムをどのように改善していく予定ですか?
佐々木様
今後は、AIモデルの更新や改善を計画しています。住宅ローン不正利用の手口は一様ではなく、年を追うごとに巧妙化しています。そういった傾向の変化にも対応できるように定期的にモデルの更新を行います。また、モデルの特徴量の見直しなども実施し、さらなる精度の向上を目指していきたいと考えています。

また、住宅ローンの審査では、家族構成やご予算などからそれぞれのご家庭の姿が見えてくるものです。たとえばそういった情報をベースに、住宅ローン以外にもどのようなニーズがあるのか、銀行としてどのような提案ができるのか、というところを、AIを活用しながら営業担当者に気づきを与えるような仕組みづくりができたらもっと様々な需要が生まれるのではないかとも思っています。

最後に、HEROZに対して今後期待することは何ですか?
佐々木様
今回、弊社の過去の審査データを用いてAIモデルを構築しましたが、住宅ローンの不正利用は弊社だけの課題ではなく、地方銀行業界全体に共通する課題です。そのため、個社ごとにモデル開発をしていくよりも、審査データや不正業者のリストを共有するなどして、地方銀行業界全体で業界共通型のモデルを構築していく選択肢もあると思っています。ぜひ、HEROZさんには、そのような構想に向けた取り組みを推進して、業界課題の解決にもアプローチしていただきたいと思います。

HEROZは、世界最強クラスの将棋AIを構築し、AIコンペティションでの優勝なども多いエンジニア集団です。機械学習・深層学習(ディープラーニング)を活用したAI関連手法を独自のコア技術として、建設・金融・エンタメ業界など、各業界のDXの中核を担うAI開発を、構想策定から実装、運用まで一貫して支援いたします。将棋AIで培った勝ちへのこだわりで、PoC倒れせず、成果を出すことを追求し続けます。

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