導入事例 #05 建築

類似事例を自動探索し最適な構造計画を支援する「AI建物リサーチ」、部材の必要断面寸法を推定する「AI断面推定®」を共同開発

OVERVIEW 概要

テーマ

AI×空間設計

お話を伺った方

株式会社 竹中工務店

設計本部 アドバンストデザイン部 構造設計システムグループ

松原由典様、高岡俊一郎様

課題
  • 建築確認申請の厳格化以降、構造設計における設計者の業務負担が増大した。しかし、DXで解決するためのツールを有しておらず、設計者の負担軽減と付加価値創出のための時間確保を両立することが困難でありそれを解決できるパートナー企業を探していた。
解決
  • 建設業界のドメイン知識を有し、多数の実績を有するHEROZに依頼
  • 設計業務支援ツールとして「AI建物リサーチ」と「AI断面推定®」を開発
  • 過去事例検索の効率化や断面サイズの目安付けを通じ、作業時間を大幅短縮

複数のデジタルプラットフォームを構築するなど、建設DXにおいて業界をリードする株式会社竹中工務店様。働く人の高齢化と人手不足が深刻化するなか、労働環境を是正し、付加価値のある提案に費やす時間の創出が求められています。そこで、HEROZのAIを活用した「構造設計AIシステム」を共同開発。これにより、設計業務にかかる時間を大幅に削減し、より高品質なプラン提案が可能となりました。今回はプロジェクトを推進する設計本部 アドバイスデザイン部の松原由典様と高岡俊一郎様にお話を伺いました。

理念が合致しHEROZとだったら良いものができると確信

まず、AIサービスの導入を考えた背景について教えてください。
松原様
建設業全体で働く人の高齢化が進み人手不足が深刻化するなか、労働環境の見直しと何か新しい取り組みを始めなくてはという危機感がありました。DX化に取り組むという会社の大きな指針がありまして、そのなかでAI技術の導入を検討していました。
業務としては、どのような点に課題をお持ちだったのでしょうか。
松原様
2005年の構造計算書偽装事件をきっかけに、建築確認申請などが厳格化され、特に構造設計においては一切の手修正、改変ができなくなりました。そのため、設計者はより迅速により正確な設計を行うことが求められ、業務量が増えて負担が大きくなっていた背景があります。業務時間を削減し、付加価値の提案のための時間をAIの力で創出する必要を感じていました。
そこで、HEROZをパートナーとして選んでいただいたわけですね。
高岡様
HEROZさんの「世界を驚かすサービスを創出する」と、弊社が掲げる「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念が合致しました。見ている方向が同じで、きっと良いものができ上がるだろうという期待感があったのが、パートナーとしてお願いすることになった決め手です。
HEROZのサービスを実際どのように何に使っていらっしゃいますか。
高岡様
HEROZさんのサービスとしては「AI建物リサーチ」と「AI断面推定®」があります。新しく建物を建てる際、初期段階において設計者は建物の大きさや階数、柱のスパンなどから過去の類似案件を調べるのですが、「AI建物リサーチ」では、条件を入力するだけで、類似する建物を自動で探索してくれます。コスト感も分かるので、改善の余地があるかの判断も可能です。さらに発展して、このプロジェクトがどのようなものかを掘り下げていく機能も追加しているので、かなり幅広い使い方ができています。

「AI断面推定®」についてはいかがでしょうか。
高岡様
「AI断面推定®」は建物のボリュームや柱・梁の位置などが決まってきたタイミングに使うことで、面や断面寸法、材料などを推定でき、自分の構造計画に見合った断面サイズの目安をつけることができます。
松原様
若手であっても、ベテランと同じように、素早く目安をつけられるようになった点は大きいですね。

社内でも好評価。判断プロセスの可視化機能に期待

実際に使ってみた所感はいかがでしたか。
高岡様
「AI建物リサーチ」については個人的にも気に入っています。社内からも積極的に「もっとこうして欲しい」という意見が上がっており、なぜこの建物が似ていると判断したのか、そのプロセスや理由を知りたいという要望が多くあります。そこで、プロセスを可視化できる新機能の追加実装をHEROZさんにお願いしているところです。
松原様
AIはすぐに答えを出してくれますが、その回答を導いたプロセスや理由が分かりませんし、パラメータを変えると違う結果になります。これまで分からないことは全て電卓を叩いて計算し明確にしてきた構造設計者からすると、回答の理由が分からないのは、納得がいきませんし信頼できないわけですね。
回答の可視化が必要になりますね。
松原様
そうです。担当者が検討結果をプレゼンして、その根拠を求められたとき、「AIが出した答えです」というのではダメ。設計者はエンジニアでもあり、これではその責任を放棄していることになります。自分で考え納得したことを提案することを怠ってはいけないと思っています。
「AI断面推定®」の利用についてはいかがですか。
高岡様
「AI断面推定®」についても、初期段階で使ってみるなど、どのタイミングで使うとよいかをユーザーに伝えつつ、今、社内に広めているところです。

設計者と空間の豊かさの両立を実現

HEROZのサービスの導入によって実現したい目標はありますか?
松原様
建物は社会の資本です。HEROZさんのAIシステムを利用することで検討回数を増やすことができます。施主や建物を使っていただく一般の利用者を含めたすべてのお客様に向けて安心・安全の担保に加え、プラスαの付加価値として、「この建物、いいな」と思っていただけるような“空間の豊かさ”を提供していけたらと思っています。
設計業務の効率化だけでなく、品質も上げていけそうですね。
松原様
はい。設計の初期段階であらゆる検討を行えることで災害発生時の被害を少しでも緩和する事ができると考えています。このシステムを利用することで、建物のどこに弱点があるのかを検討する時間をつくれる点も大きな利点です。

過去の財産を反映できるのがAIの役割

HEROZのサービスを導入したことで、どのような状態が作れれば理想的になるとお考えでしょうか。
高岡様
AIが世界的に注目されるようになり、私たちも構造設計とAIとの共存について考えていく必要性を感じています。HEROZさんのAIを使うことで、設計者の仕事をより良いものにし、同時に建物も豊かになっていくと考えています。建設業界はデジタル化が遅れ、その働き方の見直しを業界内外から注目されています。 私は竹中工務店のこれまでを創り上げてきた尊敬するベテランの方々のノウハウと、それらを糧に新しい時代の設計を行う若手の力、AIの助けを借りてその継承・融合を目指したいと思っています。
松原様
コンピュータ相手でずっと仕事をしていると、コンピュータに使われているイメージを持たれがちです。しかし、AIは投げかけたものに対して応答があり、対話ができますから、それで仕事を楽しめたらよいですね。
サービスの導入で最も期待していたことは何でしょうか。
松原様
蓄積してきた様々な設計データという財産の活用です。構造設計は計算なので答えは一つと思われがちですが、実際は一つの建物に対して無数の答えが存在します。設計者は悩んで選択を繰り返し、納得のいくものへと創り込んでいきます。その悩みの中には、使い勝手や作りやすさなど、計算では分からないことが多々あるのです。それは、諸先輩方の汗と涙の結晶です。当然、失敗もあったでしょう。そうした経験から、次はこうしようという新しい挑戦が繰り返され、それが蓄積されてきました。これは、竹中工務店の財産であり、その財産を活用できるのがAIの役割だと思っています。
単なる自動計算で一つの答えを出すものとは違うということですね。
松原様
はい。ある程度の揺らぎがあって、そのなかでもここは守らなくてはいけないという部分が、過去の計算結果に蓄積されています。それを使ったAIを作ることができた点はとても良かったと思っています。

より少ない特徴量での構造体の表現を考える機会に

導入に手応えはありますか?
高岡様
ユーザーからフィードバックが徐々に増えており、それだけ使いたいという意思の表れだと思っています。私自身がユーザーだったときに、シンプルで使いやすく、業務でも利便性を感じました。3つのAIをリリースし、「建築設計者版、設備設計者版が欲しい」といった他部署からの要望もあります。社外リリースについても、構造AIについて話を聞きたいという声もいただいています。それだけ、興味を持っていただける内容のものができ上がったのだと感じています。

実際に使用して初めて気づいたことはありますか?
松原様
特徴量の重みづけによって推定結果に影響が出る部分については、AIが調整してくれると思っていたのですが、実際は、ある程度人間が考えて調整しなければならないことに気づきました。

統計学における単回帰分析の場合、一対一の変数同士の相関なので比較的納得感のあるデータが得られます。それでは、変数を増やして、重回帰分析をすれば、より精度の高いデータが得られるかというと、必ずしもそんなことはありません。AIも同様で、特徴量を増やせば増やすほどいろいろな検討ができますが、全部の要素を特徴量として評価すると平均値に近くなってしまい、どれも同じような結果しか出なくなってしまうのです。より少ない特徴量で構造体をどのように表現するかを考えるいい機会になりました。

建設×AIでは2歩も3歩も抜きん出ているHEROZに期待

HEROZのサービスはどのような役割を果たしたといえるでしょうか?
松原様
HEROZさんのサービスを導入して、今までにない、新しい働き方を実現するツールを示せたことは大きかったと思っています。竹中工務店では、自社開発の構造設計システム「BRAINNX」に過去20年間分以上の構造計算データが保有されています。それが優れた教師データとなり、AIに学習させることですぐに実用化することができました。これからは、建物に備えつけられたセンサーやBIMでつくったモデルなどが、竹中工務店の「建設デジタルプラットフォーム」に蓄積されていくことで、そのデータを活用した新しいAI、BIに繋げていけたらと思っています。
HEROZに対して今後期待することは何ですか?
高岡様
昨今、生成AIを用いたサービスは世の中に多く出てきていますが、建設×AIの領域において、HEROZさんは2歩も3歩も抜きん出ていると感じています。HEROZさんには、関連法規をいかに生成AIに取り組めるかといったことも踏まえ、建設×AIのリーディングカンパニーとして、新しいものを作っていっていただきたいと思っています。
本日はありがとうございました。

HEROZは、世界最強クラスの将棋AIを構築し、AIコンペティションでの優勝なども多いエンジニア集団です。機械学習・深層学習(ディープラーニング)を活用したAI関連手法を独自のコア技術として、建設・金融・エンタメ業界など、各業界のDXの中核を担うAI開発を、構想策定から実装、運用まで一貫して支援いたします。将棋AIで培った勝ちへのこだわりで、PoC倒れせず、成果を出すことを追求し続けます。

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