導入事例 #01 建設

地下工事における工期遅延リスクを設計段階において3D CADモデルから検知する「AI for U」の開発

OVERVIEW 概要

テーマ

地下工事における工期遅延リスクを設計段階において3D CADモデルから検知する「AI for U」の開発

お話を伺った方

東洋エンジニアリング株式会社

土木・建設エンジニアリング部 チームマネージャー 大場 公徳 様

DXoT 推進部 タスクオーガナイザー 松丸 洋幸 様

課題
  • 地下工事における工期遅延による後続作業の生産性低下
  • 設計段階で行われる施工性検討の判断基準がエンジニアの経験知でばらつき、見落としが発生
  • 特定個人の技能や経験に依存し、ノウハウが形式知化されておらず継承されづらい
解決
  • 施工性検討時に工事中に起こり得るハザードを検知し、事前に設計に織り込むことで工事遅延を未然防止
  • AIがハザードの発生根拠を定量的に表し、施工性検討時の属人的・局所的な判断から脱却
  • 今後もプロジェクトの結果を基に暗黙知を形式知化し、AIを更に成長させる

世界60カ国以上で石油化学プラント、石油精製プラント、発電所、インフラ、などを数多く建設し、「エンジニアリング御三家」の一角を占める東洋エンジニアリング株式会社様。変化の速い時代の中で技術革新を生み出すため、DXoT(Digital Transformation of TOYO)として全社を挙げてDXを推進。生産性6倍を掲げ、その一環として専門性の高いUG(Under Ground: 地下)工事のプラント設計において、スケジュール遅延リスクが発生しうる箇所を設計段階における3D CADモデルから検知し、プッシュ型で知見を提供するAIシステムをHEROZと共同開発しました。今回はプロジェクトの中心メンバーである、設計部門の大場様、DX推進部門の松丸様のお二人にお話を伺いました。

生産性を6倍に上げるDXoTにAIは欠かせない

今回の「AI for U」が初のAI開発と伺っていますが、そもそもどういう経緯で開発が決まったのでしょうか?
大場様
世の中全体で生産性向上が進められていますが、建設業界はここ30年間、生産性が向上していないというデータがあります。そこで当社では、2018年度からデジタルでビジネスを変革して生産性6倍にすることを目標とした、DXoT(Digital Transformation of TOYO)の推進を始めました。その中で重点項目のひとつとして、「CC Driven Engineeringの実現」があります。
なるほどです。
大場様
プラント建設業界では、EPC(設計・調達・建設工事)というワークフローの捉え方が一般的ですが、当社ではその後の「Commissioning(運転)」を含めてEPCCと捉え、プロジェクトの成功のキーは、最後のCCのところだと考えています。特に、工事以降のステージで問題が発覚しても対応も困難でコストもかかってしまうため、工事がスケジュール通り、予算通りに進むかどうかで、プロジェクト全体の工期やコストが大きく変わってしまいます。工事がスムーズに行えるよう、施工性検討時に工事中に起こり得るハザードを把握し、事前に設計段階で織り込むことで工事遅延を未然防止したいという考えが以前からありました。
設計や調達段階と工事段階ではそんなに違うものですか?
松丸様
工事段階で問題が発覚すると、ヒト、材料、建機などの物理的な事柄のアレンジの調整や手戻りが発生しますので、設計や調達段階で対応するのと比べて、時間も労力も多くかかるのが通常です。例えば「AI for U」の「U」の元である、UG(Under Gound=地下)工事では、施工するにあたり、地面を掘り起こさなければならず、地面に穴を掘っているような状況ですので、周辺のアクセスを阻害してしまいます。その状況で雨が降ると状況は地獄絵図です。工事施工するにあたり、掘った穴にたまった水を抜き、水分を含んだ泥を処理したりと、自ら仕事を増やしているような感覚に陥ってしまいます。このように、工事段階では、外的な環境の影響も大きくかつ、物理的な作業・ものを取り扱うため、コストも時間もかかってしまいます。ハザードを事前に知覚し、計画通りに実行できるようにしておくことが重要です。地下を制すものは工事を制すという言葉さえあるぐらいですから。
これまではどうされていたのですか?
大場様
スムーズな工事のためにフロントローディングで施工性検討を強化するという課題感はずっとあって、チェックシートをつくったり、ベテラン社員がチェックしたり、レビューミーティングを開いたりと取り組んでいたのですが、決定的な解決策にはなっていませんでした。
松丸様
プロジェクトにおける現場工事は立ち上げから完成まで数年かかります。その間、広大な地下工事の全てのトラブルを記録し、その原因となる過去の事象を遡って事実ベースで特定して、形式知化するという事は、なかなか困難な作業であり、どうしても属人的なナレッジに留まっていました。そのため、ベテラン社員でもそれまでの経験だったり、知識によって目をつけるポイントが違っていたりしました。

HEROZとなら、初めてのAI開発でも完走できると信じられた

その解決のために始まったAI開発プロジェクト、HEROZに決めた理由はなんだったのでしょうか?
大場様
自社にはAI化の経験も人材もなかったため、10社以上はコンタクトを取って相談しましたが、建設業界に知見がある会社がなく、最初は難航したと聞いています。
松丸様
DX化やAI化が進んでいない建設業界で、その中でも特殊なプラントエンジニアリング業界ということで、AI会社の方々との予備知識の違いが大きいと感じることが多かったです。
その状態では任せるのは不安ですね。
大場様
当社の株主で投資会社のインテグラルはDXやAIに詳しく、DXやAI企業と100社以上面談するなど色々なネットワークを持っていました。インテグラルからは多岐にわたる紹介があり、中でもHEROZは3DモデルへのAI適用知見や、建設会社での構造計算へのAI適用の成功事例といった実績もある、ということで期待が持てました。
松丸様
HEROZは最初からコミュニケーション意欲が違いましたね。プラント業界のお話をした時も、積極的にいろいろ調べてキャッチアップしてくださる姿勢があって、「この会社となら話を粘り強く続けて、プロジェクトを完走できるな」と感じたことが、決め手でした。

1年半に渡る開発期間、生産性向上という軸はぶれなかった

開発が始まってからはいかがでしたか?
松丸様
自分たちが経験を基にした暗黙知ベースで行っていた判断を言語化、数値化するのが本当に大変でしたね。たとえば私たちは地下の基礎が深いと工事が難しい、工期遅れのリスクがあると、当たり前に思っています。しかし、深いって何メートルからですか?、深いとなぜ遅れるのですか? などといざ聞かれると、どう説明したものか、会議前はよくうなっていました(笑)。
大場様
HEROZさんとの協同作業で助かったのは、私たちが説明に困っていると、その情報はどこでわかりますか?、3D設計情報のどこに表れますか?、その数値は条件が違うと変わりますか? などと、「深い地下工事だと難しい。」という一言から、情報を紡いでいってくださったことです。
哲学と数学を合わせたようなやりとりですね。
大場様
期間としては、構想を固めるフィジビリティ・スタディ(FS)に3か月、概念実証テストであるPoCの1回目が6か月、PoCの2回目と3回目で4か月、アプリケーションのUI実装が4か月で、合わせて1年半ほどかかりましたが、本当にやりがいがあったというか、苦しくも面白い日々でした。
松丸様
私たちも含め、当社側は各部署から兼務のメンバーを含めて10名ほどの体制で、HEROZさんと会議を重ねていったのですが、進んでいくうちに、HEROZさんとも一丸になってチームとしての一体感が醸成され、ワンチームになっていった感覚はありますね。
AI業界では概念実装で止まって実装までいかない「PoC倒れ」の多さが問題になっていますが、初めてのAI開発で実装まで完走できた理由はどこにありますか?
大場様
私たちは始めてのAI開発で本当に手探りだったので、やはりHEROZさんが完成までの線路を敷いてくださったのは大きかったですね。プロジェクトをFS, PoC, 実装とフェージングし、各フェーズでのゴールを設定し、成果物をプロトタイプであってもとにかく目で見えるような形に仕上げていけたことが大きかったと思います。FS段階からPoCにかけてはコンサルティング的な要素が大きく、我々の課題を言語化して解像度を上げていく作業を伴走してもらいました。またPoC段階後半ではHEROZさんが業界の常識、ベテラン社員の経験と勘を粘り強くルール化や数値化し続けてくださったのは助かりました。
松丸様
目的は先端のAIをつくることではなく、生産性を上げることだという共通の目的がぶれることはありませんでしたので、スモールサクセスを意識して活動できたこともあると思います。

AIは言葉にしてこなかった感覚を言語化してくれた

運用開始されたAIシステムの評判はいかがですか?
大場様
今回開発された「AI for U」の内容を簡単に説明しますと、プラントの3D設計情報から、工事が遅れる危険性がある部分をハザードとしてAIが検知して、ハザードの度合いと共になぜ危険なのかをプッシュで通知してくれるというシステムです。数か月前に実際のプロジェクトで本格運用が始まりました。当社初のAIシステムということで、社内で講演会を行なった際には質問・反響なども多く、注目されていると感じます。
松丸様
若手からは、「危険な理由までわかって勉強になる」という声が出ています。若手社員の教育ツールにもなりそうだと感じますね。逆に中堅ベテランからは、「そうそう、そういう場所が気になっていた」と後から少し悔しそうに言われることが多いです(笑)。まったく新しい情報が出てくると言うより、経験や勘のような感覚的な部分をしっかり言語化、数値化して客観的に見せてくれる存在といったところだと思います。私たちもAIの検知結果が100%正しいと押しつけるつもりはなくて、AIの指摘は議論のスタートだと言っています。
KPIなども設定されているのでしょうか?
松丸様
プロジェクトでは、見積り手法の不完全さを補完するために付加される数量または金額を予備費と呼びますが、AI for U によって、この予備費を10%減らすことをKGIとして設定し、検知した高リスク箇所への対処率をKPIとして設定しています。
大場様
AIforUを実際に適用したプロジェクトでは検知結果のプロジェクトメンバーへのフィードバックや対応策の協議など実務で活用され始めています。工事完了時点での答えが出るのはまだ少し先のことですが、設計段階で検知できた工事遅延のリスク箇所を見ると、試算ではKGIの目標は達成できるだろうと手応えを持っています。

危険度検知だけでなく時間軸も融合してAIを活用したい

運用開始したばかりですが、次の構想もあるのでしょうか?
松丸様
来年度はハザードの検知だけでなく、時間軸も考慮できるように進化させたいと考えています。現在の検知結果は何カ月にも及ぶ地下工事のリスクを1枚の静止画であらわしたようなものです。しかし実際は工事開始後の3か月目と6か月目では施工スケジュールに応じて状況も変わるわけで、高リスク箇所も静止画ではなく動画の様に変わっていくと考えています。AI for U にこの時間軸を融合させたいですね。
大場様
当社はグローバル展開していて、様々な国にある拠点でも設計を行っています。人材もグローバル化しているので、様々な国の拠点で、様々な方にAI for Uを使ってもらいたいと考えています。

最後にHEROZに今後期待することはございますか?
大場様
AIは実装して終わりではなく、磨き上げていくものだと思います。今走っているEPCプロジェクトが終わったら、トラブルデータを活用して更に学習させたいですし、そんなとき、HEROZさんとまた協業できれば安心です。
松丸様
お互いの強みを融合させ、また、継続してよい関係を作り上げていくことで、さらに取り組み範囲を拡大し、成果も価値も生み出していけると思います。他にも建設現場には課題がたくさんありますので、一緒に解決するべく、どうぞよろしくお願いいたします。
こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

HEROZは、世界最強クラスの将棋AIを構築し、AIコンペティションでの優勝なども多いエンジニア集団です。機械学習・深層学習(ディープラーニング )を活用したAI関連手法を独自のコア技術として、建設・金融・エンタメ業界など、各業界のDXの中核を担うAI開発を、構想策定から実装、運用まで一貫して支援いたします。将棋AIで培った勝ちへのこだわりで、PoC倒れせず、成果を出すことを追求し続けます。

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